吉田篤弘『月とコーヒー』読了。 眠る前に読むのにちょうどいい24篇。 あまり考えずに読める本もたまには。 『熊の父親』が好きかな。旗屋を営んでる熊の父親のもとに焼売のみのお店を出したい男が依頼にやってくる話。それだけしかできないことが否定されず受け止められる現実にはないようなことが描かれるのは小説の持つ強みなのかもしれない。
種村季弘編『東京百話(人の巻)』読了。 昭和の東京について書かれたエッセイ。 職人・商人、芸人、遊び人、怪人奇人、文士・学者・画家、女たち、庶民など。 印象に残ったのは種村季弘『葦原将軍考』、小沢信男『説教強盗ほ春秋』、阿部定『阿部定事件予審調書』、川口松太郎『一平、かの子、太郎』、広津和郎『菊富士時代』、色川式大『善人ハム』など。 やはり人が1番面白い。
門前典之『屍の命題』読了。 亡くなった大学教授の別荘に集められた6人。1人1人殺されて… 日本の本格物は久しぶり。 感想が難しい…そして誰もいなくなったなんだけど、読者が犯人を特定するのはほぼ無理かな。 クローズド・サークルではあるから犯人は6人の中にいるとはわかるんだけど、これはちょっと想定外というより、なんかすっきりしないのは何なんだろうか。
今日は台風なので1日籠ってダラダラしてた。それでも洗面台をピカピカにしたりとかはした。 そしてずっと読み返したかった永井豪『デビルマン』を。リメイクの『デビルマンG』を手に入れたのでその前に読みたかった。 Kindleにはないのでebookjapanで。 子供の頃観てたアニメとは全く違うのを大人になってから読んでびっくりしたけど、意外と覚えてなかった。 サタンとシレーヌがごっちゃになってた。最後のシーンが女性のイメージだったから。 アニメで原作通りには流石に作れなかったんだろうけど、ネトフリ版はまだ観てないので少し期待。
R・A・ラファティ『地球礁』読了。 地球に住みついたデュランティ一家。地球を住みやすくする為に人類抹殺を考えるが、近所で殺人事件が… 異星人と思われる一家に特殊能力があるんだか、ないんだかよくわからないまま地球人の悪者達と対峙して勝ったり負けたり。 それでもよくある感想の滅茶苦茶とは思わなかった。概ねストーリーは追えるし。 道理を説いても、出自やデマで信用されないというのは悲しいし、それを正そうとしても圧倒的な暴力には逆らえない。 それでも最後は…この辺りは著者の宗教観かな。
E.H.カー『歴史とは何か』読了。 「歴史とは現在と過去との対話である。」という言葉が有名な講演の記録。 無茶苦茶難しかった。これが書かれた背景がわからないと意味が読み取れないところが多い。 それでも歴史を考える上では読んでよかったと思える。歴史とは事実でなく、誰かが選び、語ることで歴史的事実になるというのは思い当たることが多い。 残りの時間で読み返すことはないだろうけど、他の歴史学の積読が補ってくれるかな。
来月在宅勤務する期間がありそうなので机の上の漫画を読む。 衿沢世衣子『向こう町ガール八景』 必要以上に干渉し合わない距離感のようなものが読んでて居心地がいい。 丸尾末広『犬神博士』 著者らしからぬストーリー性のある怪異譚…こういう路線で描き続けることもできたんだな。 上村一夫『花言葉』 連作になってる話が好きかな。ビリー・ワイルダーの影響はありそう。『修学旅行』は傑作。 高山和雅『天国の魚』 タイムスリップものかなと思ったら本格的なSF過ぎた。SF部分はSF知識不足で理解できてない気がするけど、登場人物の感情の動きがしっかり描かれてるから十分楽しめた。
種村季弘編『東京百話(地の巻)』読了。 昭和の東京について書かれたエッセイ。 路地と散歩、上野・浅草、下町、坂・橋・川、新宿・渋谷・池袋、山の手線うちそと、新開地、郊外の生活など。 やはり馴染みのある場所の話が面白い。 印象に残ったのは佐藤春夫『飾窓を見る事の面白さ』、三島由紀夫『わが銀座』、井上洋介『三分坂』、庄野潤三『不案内』、獅子文六『町ッ子』、上林暁『荻窪の古本市』など。
フレドリック・ブラウン『3、2、1とノックせよ』読了。 連続強姦殺人が発生中のアメリカの小都市。賭博での借金から逃げ回るレイ… レイが借金を返す為にどうやってお金をつくるかで孤軍奮闘する話と殺人者が次の獲物をなんとか見つけようとしてる話がどこで交わるのか… シンプルな内容なのに面白い。ブラウンはミステリも面白いな。
ローベルト・ゼーターラー『キオスク』読了。 ナチスドイツから併合を迫られているウィーン。キオスクで働くことになったフランツはフロイトと出会い… キオスクの店主がユダヤ人である時点でおおよそ話の展開が読めてしまうのだけど、主人公の少年が最後にみせた行動が想定外すぎた。こういうの今の日本の文学ではタブーになってる気がするけど、海外ではどう受け止められるんだろう。
埴谷雄高『闇のなかの思想 形而上学的映画論』読了。 映画の批評ではなく、触発された連想や回想を書き連ねた映画エッセイ。 冒頭に連想や回想があってからの映画の話になるんだけど、冒頭だけ面白い。 映画の話は観たことある映画であればある程度わかるけど、全く観たことも聞いたこともない映画の話は流石にわからない。 60年代の芸術系の映画はよほど傑作でないと残ってないのもあるけど、ここまで知らない映画があるとは。そこそこな数の映画観てきたつもりだけど。 生前文庫化を拒否してたけど、新書はあったのを最近まで知らなかった。
積読漫画消化。 丸尾末広『薔薇色ノ怪物』 眼球への執着が凄い。 勝又進『赤い雪』 『袋の草紙』の衝撃と『子消し』の恐怖。 森雅之『夜と薔薇』 漫画は誰かに向けて描かれている。 山野一『貧困魔境伝ヒヤパカ』 鬼畜漫画のイメージしかない著者のガロ的な傑作『のうしんぼう』が凄まじく、読んだ後しばらく考え込んだ。
種村季弘編『東京百話(天の巻)』読了。 昭和の東京について書かれたエッセイ。 大道、見せ物から食べ物、カフェを経て色街、博物誌、そしてお化け、夢。 短いエッセイだけど、いろんな書き手を500頁も読むとたくさんの人と会話したくらい疲れた。 同じ人が何回も出てくるとは思わなかったけど、それだけ良いエッセイが多いんだろうな。 印象に残ったのは岡本かの子『鮨』、井上ひさし『喫茶店学』、飯田美稲『人形綺談』、吉岡実『わが鳥ダル』、瀧口修造『夢三度』など。
ウィリアム・モリス『ユートピアだより』読了。 目が覚めたら22世紀のロンドンに。そこは社会主義革命後の理想的な世界だった… 全ての仕事が楽しい世界。だから報酬もいらないし、貨幣経済自体がいらない。 社会主義のその後を知った現代では書かれないタイプの本だけど、社会主義や共産主義が成功する唯一の方法の様なものが読み取れるところもあるかな。 仕事が楽しいと若々しいというのだけは確かだけど、美男美女や若さが良いことみたいなのはイギリスの社会主義っぽい。
柴田元幸編訳『紙の空から』読了。 旅に纏わる英米文学の短篇集。 訳者の好み全開なんだろうな。スディーヴン・ミルハウザー目当てで買った記憶があるけど、1番好きなのはスチュアート・ダイベックの『パラツキーマン』。 こういう不気味だけど、少し悲しい話が心に残りやすい。 カズオ・イシグロの『日の暮れた村』も良かった。過去の栄光に縋って暮らしている男と成長し大人になった男の話。どちらが幸せかはわからないけど、記憶の影響は大きいな。
ピエール・マッコルラン『アリスの人生学校』読了。 親友のイザベルからヴォルテールの『カンディード』を借りて読んだアリスは別の友人にまた貸しするが… 二階堂奥歯の『八本脚の蝶』で言及されてる本で、著者がマッコルランなので。 叔母から教育という名の虐待を受ける話ではあるんだけど、保守派から共和派に変わるというのは身体的拘束から精神的自由を掛けてるんだろうな。 カンディードと同様に様々な苦難の果てにアリスが出す結論は少し意外だった。 女性に対する意識の変化もあるんだろう。 訳者の正体が最近わかったらしいけど、意外な人だったな。そして企画製作には… 写真の帯位置はbluesky対策。
苅部直『丸山眞男 リベラリストの肖像』読了。 丸山眞男の著作を引用しながらその思想を考察。 市民主義への懐疑を表明して左派に嫌われ、創られた伝統に言及して右派に嫌われたけど、現代から見るとまさに今、それが両派の弱点になってる。おそらくそれらの立ち位置で答えを持ってる人は少ないんだろうな。 中道的なものが答えのように見えて、丸山の答えは作為、形式そして散文的かな。
四方田犬彦『ソウルの風景』読了。 2000年秋に21年振りに訪れた韓国の姿。 少し古い本だけど韓国文学を読む前に。 軍事独裁政権と経済成長、光州事件、文民政権、太陽政策あたりの時代。 題名を『喪失の時代』とした『ノルウェイの森』、政治的なエンタメ映画『シェリ』や『JSA』の大ヒットなども。 1番印象に残るのはいろんなところで引用されてる『水曜集会』。慰安婦問題に関するデモ活動だけど、著者が直接対話したことで内実がよくわかる。 今度は現代史を読もうかな。
野間宏『真空地帯』読了。 刑を終えて二年振りに原隊復帰した木谷上等兵。窃盗した彼はなぜ軍法会議にかけられ、刑務所に送られたのか… ずっと積読だったこちらを漸く。 軍隊のいじめの話みたいな説明を何処かで読んでたんだけど、全然スケールが違った。 体育会系の暴力的世界ではなく、軍上層部のインテリ達の私利私欲。こういうの相手だとどうにもならないんだろうな、 仕組みを作る側が強いし、本来は告発する側のマスコミも権力側になってしまった。どういう戦い方があるのか指し示すような作品読みたいな。
丸山眞男『日本の思想』読了。 日本の思想を日本人の思考や構造の無さから考察したもの。 岩波新書と言えば最初に出てくる本。 明治維新の勝ち組が権力集中を避けて作った明治憲法。神聖不可侵の天皇の下に大臣が横並び。憲法外の元老・重鎮。内閣の統制を受けない軍。戦時には大本営。結果、決断主体が曖昧化して、国家の意思決定が構造的に不可能な無責任体系が誕生。それを國體と臣民が支えた。 戦後、國體の代わりに世論を作ったのがマスコミ。 どちらにも足りないもの、それが主体。 自身の内面で思想を引き受け、責任を負い、行為をする。 ササラ型とタコツボ型、であるとするの議論もここに繋がる。 面白かった。
小林信彦『一少年の観た〈聖戦〉』読了。 一人の少年が〈聖戦〉のさなかにおいて、いかに国策映画、国策演劇。味わったか記録したもの。 昔読んだユダヤ人迫害を描いた『あのころはフリードリヒがいた』では今月は映画館、次の月は図書館といろんなことが次々に禁止されていくのが怖かった。 こちらはだんだん暗い世の中になりつつ日々映画や演劇を観ていた思い出が語られる。だから1番辛いのは集団疎開で映画が観れなくなったこと。 少年が国策映画の中に好きなアメリカ映画的なものを探すと、作り手も影響受けているから必ずなにか入ってるのが面白い。 検閲前の完璧な『無法末の一生』観てみたいな。
吉行淳之介『恐怖対談』読了。 霊とかではない人間関係の中にある恐怖を語り合う対談集。 話の面白さでいえば立原正秋との喧嘩話。弱い人間はどうするべきかの著者の答えが昭和を感じさせる。これ今言える人いないだろうな。 淀川長治の「太陽がいっぱい」の説はここにあったのか。今だと割と他にも言ってる人いるけど。 今東光の竹久夢二の彼女と谷崎潤一郎の話のインパクトが凄いな。こういうのも今は書けないんではなかろうか。
仲正昌樹『<学問>の取扱説明書』読了。 哲学・思想、政治学、経済学、社会学、法学についてどう言う学問で、いまどう教えられているかの解説本。 積読してたからサンデルの話とか民主党政権とか古いなと。 ついていける分野とお手上げの分野が。 法学は興味ないけど、紹介されてる新書くらいは読もうかな。 通史的なものは全体像が俯瞰できるのがいいところ。どうしても書く人の視点になるけど。
バーリン『ハリネズミと狐』読了。 ギリシアの試作の断片『狐はたくさんのことをしっているが、ハリネズミはでかいことを一つだけ知っている』を芸術家や思想家に… プラトン、ドストエフスキーなどはハリネズミ、ゲーテ、ジョイスなどは狐、ではトルストイは? 前半はトルストイの矛盾に迫っていく描写が面白かった。後半のメーストルとの対比は小説でいえばキャラ被りで、明確な違いがあるけど、これだけで読み取るのは厳しいかな。 メーストルの世襲王制や結婚のような非合理的制度は時代を超えて生き残るが、選挙王制や自由な人間関係などの合理的制度は明確な理由もなく崩壊したというのは時代を読み解く時に押さえておきたい。
泉鏡花『春昼・春昼後刻』読了。 夢の中で結ばれた男女。男は直ちに夢の中へ、女は… 一度読み終わって、もう一回読んだ。 語り手である散策子が女の言葉に怒るんだけど、女が察して、裏を聞けと言うんだけど、それでも納得しないので気持ちを事細かに表現する。 自分は察して文化が苦痛なんだけど、こんな風に心の中を表現されても、それはまたなんとも言えない気になる。 謎の△◻︎◯が出てくるけど、女が書くのは◯◻︎△なのは鏡像かと思ったけど、明治なら縦書きとすると上下反転なのか、ループなのか。 女が未来(あの世)の有無を子供を使って突き止めるのは執念なのか、愛なのか。
永六輔『大往生』聴了。 著者が聞いた話や自身の死に関する話を集めたもの。 岩波新書で1番売れた本。自殺マニュアルなんかと同じ時期に凄く売れてたのは知ってたけど、興味がなくて。 本当に聞いた話を脈絡なく次から次へと紹介されるんだけど、これは著者独特の語り口を脳内で再生できれば楽しめるのかも。 割と小さい頃から死については考えてきたので、歳を取ったから何かが変わるというのはないな。 でも、こういう死に方をしたいとか語れる時代を羨ましくは思うかな。
田中克彦『ノモンハン戦争 モンゴルと満洲国』読了。 ノモンハン戦争がなぜ起きたか、そしてその影響は… 著者の専門というのもあってモンゴル視点が多い。モンゴルについては殆ど知識ないので難しかった。 首謀者である辻政信の名前を出してもソ連の研究者が一介の少佐がそんな事できるわけない国がやったんだと反論するのは普通の反応だと思う。 満州事変にしろ、ノモンハン戦争にしろ現地軍(関東軍)が暴走して国家規模の戦争に発展するなんて日本だけだし。 しかも辻政信は戦後自民党から参議院議員になってる…その後行方不明…
福田歓一『近代の政治思想―その現実的・理論的諸前提』読了。 講演録をもとにした政治思想史の入門書。 講演録なだけあって読み易いけど内容は濃い。 ルネッサンスの人文主義が終わり宗教改革、科学革命で教会、神の存在に翳り。デカルトは神を否定はしなかったが世界を認識するのは人間の理性とした。 絶対王政では、王政の根拠は神で、働かず国事をするのが人間の理想というもの。それに疑問を呈し、自然状態の人間から考え直した思想家達。 限られた富なら支配者を容認するとしたホッブス、富を生産する為に自律的に働く人間が必要としたロック、全ての人間が政治参加する事で市民を作るというルソー。